引継をしない社員の対応について

 「あと数日で退職日を迎える社員がいますが、いまだ業務の引き継ぎを行おうとしていません。この者は、プロジェクトの重要部分に関与しており、後任者への引き継ぎは必須であるところ、上司、同僚らの再三の求めにも応じず、このままでは本当に何もしないまま、退職することになりそうです。もし引き継ぎが行われない、または十分な形でなされなかった場合、損害賠償等を請求することは可能でしょうか。」

退職するにあたっての引継ぎは義務であると考えられますので、社員は退職するに当たり、誠実に引き継ぎをする必要があります。したがって、社員等が、引継ぎ自体を一切せずに退職すれば、会社はこの者に対して、損害賠償を請求できる可能性があります。

ここで、会社としては、完璧な引継ぎを求めたいところですが、現実的にそこまでのものは不可能と考えられます。

そのため、誠実に引継ぎが行われれば、社員に責任を問うことはできません。

また、引き継が一切なされなかった場合、社員の義務違反を問うことができるとしても、引継ぎ未了と損害との間の因果関係については、会社が立証しなければなりません。

それには困難が伴います。さらに、「この社員のみに責任がある損害額はどの程度か」の算定や、その立証も難しく、会社が希望する金額を全額請求するというのは現実的にはかなり難しいと考えられます。