東京高裁 分掌変更に伴い支給した退職給与を巡り納税者敗訴

 東京高等裁判所は、控訴人の代表取締役が取締役(相談役)に分掌変更したことが「退職と同様の事情」にあると認められ、分掌変更時に支給した金員が役員退職給与として損金算入できるか否かを巡り争われた事件について、控訴人の請求を棄却した。

 役員退職給与は、その支給額が“過大(不相当に高額)”でなければ、損金算入できることが原則だ。この点、役員が実際に退職せずとも、分掌変更後の役員給与が激減(おおむね50%以上減少)しているなど、「その役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にある」と認められる場合であれば、役員退職給与として損金算入が認められる。

 今回の事件では、控訴人の代表取締役の分掌変更が、「退職と同様の事情」にあると認められるか否かなどが争点となった。

 控訴人は、プラスチック製部品の製造販売等を行う株式会社X社である。X社は、平成23年5月30日に開催した株主総会・取締役会で、代表取締役Aを「取締役(相談役)」に再任し、X社の本社工場の営業部長Bを「代表取締役」に選任。同日、元代表取締役Aの報酬を月額205万円から「月額70万円」、新代表取締役Bの報酬を「月額85万円」とする旨の決議を行ったほか、元代表取締役Aの退職慰労金を約5,600万円とする旨を決議し、同年6月15日に支給した。

 X社は、平成24年3月期について、本件金員を役員退職給与として損金算入して法人税の確定申告を行い、その後、修正申告を行ったものの(本件金員を損金不算入)、最終的には、本件金員は損金算入されるべきであったとして更正の請求を行った。

 これに対し国側が、本件分掌変更は、「退職と同様の事情」にないため、本件金員は損金不算入になるとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことで争いとなった。

 東京高裁は、元代表取締役Aは、分掌変更後も相談役としてX社の経営判断に関与し、対内的にも対外的にもX社の経営上主要な地位を占めていたものと認められることから、「退職と同様の事情」にあったとはいえず、本件金員は、法人税法34条1項括弧書きの役員退職給与に該当しないと判断した。